the unconsoled





The Unconsoled

by Kazuo Ishiguro

イシグロの作品で今の所一番長い小説。
魚の骨が喉に引っかかっていて、どうにか取ろうとするんだけど、
取れそうで取れない。そんな500ページ。
時々ホッとしたり、温かい気持ちになったりはあるけど、
大体のページでイライラする展開。

だけど、読み続けたい。
初めから終わりまで、夢の中にいるような感覚にさせてくれ(決してよい夢ではないのだけど)、本を閉じて、タッピーの横で気づかないうちに眠っていた。
ここ最近一番気持ちのよいまどろみ。

ライダーという権威のあるピアニストがヨーロッパのどこかわからない街に、コミュニティにとって最も重要なイベントで演奏するためにやってきた。

だけどライダーは、なぜそこで自分が演奏するのか、そしてそのイベントがどんなものなのか、全く記憶にない。そのイベントは危機に瀕するそのコミュニティを救う一手になると聞かされるのだけど、何の危機なんだかもわからない。最初の段階では、コンサートが何日後なのか、ライダーのスケジュールが全く明かされないし、主人公もわかってないので、何の見通しも立たないまま、ライダーのコンサートに向けての街での滞在に付き合わされる。

この見通しの立たなさがずっと続く。しかも、見通しを立てようとライダーが動く途中で、町の人たちに会い、彼ら各々が身勝手とも取れる「お願い」をライダーにする。何事も概ね断らず、コミュニティを理解するためだとか理由をつけて、手助けしようとするライダー。だけど結局頼まれごとが多すぎて、しかも過密スケジュールなのにそのスケジュールを把握していないので、演奏の準備もできないまま時間が過ぎていく。

とても不思議な小説で、読みながらえええ?これからどうなるの???と思うところがとても多かったけど、読み終わるとまだ不思議の余韻が続く。腑に落ちないのに、読んでよかったと満足できるのも不思議。

結局ライダーはどこにも属さない。旅をして、様々な土地の「他人」と浅く交わることに安らぎを覚える。自分の両親のことすらよくわからない。自分の持つ過去の記憶も、他人との関わりの中で浅く思い出されるだけで、感情が長く続かない。去る者は追わない。

タイトルのThe Unconsoled。慰められない人たちのお話、それとも、ライダーだけが結局満たされず、誰の愛にも誰の悲しみにも真に属さず、自分の悲しみや枯渇にもついには属さない、という話だったのかな。多くの傷を持ち、その傷と向き合い、または逃げながら生きていく人たちの中で、ライダーは傷つかない。常に自分があるようで、ない。傷がつかない、またはそれがすぐに蓋をされてしまうなら、それを癒しようもない。

もう一つ、読んでいて考えさせられたのは、変化を求める人と求めない人たちのせめぎ合いの中で明らかにされていく「変化を求めてるけどそんなに変わるのは嫌」という本質。ラディカルに変える必要はなく、自分たちの心地よい表面的な変化で良い、という態度は、どのコミュニティにも見て取れる。それをシンボルやメディアの働きを鋭くかき出していた。

記憶と愛、過去の傷を超えて生きようとする女性、
そういうテーマは、前に読んだ「the buried giant」に通じるし、また、ポーターのグスタフの描写は「the remains of the day」を思い出させた。あと多分4作品くらい、イシグロさんあるけど、ちょっとこのまま勢いで読むのもったいないので、他の人の作品をしばらく読もうかな。



最近また大きくなったタッピー。
BLW(Baby Led Weaning)という離乳食のやり方で、いろいろ食べさせてる。
日々目に見えて大きく成長する彼を見ていると、私の心もちゃんと成長するように、毎日しっかり大切に過ごしたいなあと背筋が伸びる。

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