You Don't Have to Say You Love Me.

読む期間に入ったので、読んでいるけれど、ただ読んでいたら書きたくなるよね。
覚書レビューは書くと決めていたけど、何か良いシステムを考えなければ。

そして一個出そうと思ってて間に合わなかったコンテストの締め切りが今月末まで伸びたので、それはちょっと例外的に書こう。
*****
You Don't Have to Say You Love Me by Sherman Alexie


Oh man, he is so good.

思わず読みながらつぶやいてしまうほど、
シャーマン・アレクシーは素晴らしい。
小説もだけど、何より、詩と、
伝記的な文章がやばい。

エグラレル。

痛みを伴うユーモアが、抜群。
声を上げて笑うパッセージの次に、涙がこみ上げる。
泣いているのに、声を上げて笑ってしまう。

私がアレクシーの作品に出会ったのは、2008年、コロラド。
パインリッジ・ラコタインディアンリザベーションという先住民の居留区に訪れた後、先住民の人たちのことがもっと知りたいと思って観た映画が、「スモークシグナルズ」というもので、その脚本を手がけたのがアレクシーだった。

アレクシーは、Spokane-Coeur d'Alene族のライター。リザベーションで貧しさ、いじめ、病気、虐待、様々なものと戦いながら育ち、12歳の時に白人の町で一人教育を受ける決意をする。生い立ちはThe Absolute True Diary of Part-Time Indianに綴られているので、気になる人はそちらを。アレクシーは辛口にコロニアリズム、白人主義などを批判。性的なことも、暴力的なことも、正直に描く。そのため、彼の作品の多くはコンサバ層の反感を買い、学校図書館で禁書リストに載っている。

だけど、私は彼のライティング、書くサブジェクトマターがとても好きで、
コロラドから佐賀に帰った2009年から2010年にかけて、彼の全作を読破し、彼の作品に登場する暴力について、卒業論文を書いた。

前置きが長くなったけれど、今回の作品、You don't have to say you love meは、亡くなった母親についての回顧録"memoir"として出版された。実は私はあまりmemoirという形態の読み物が好きじゃないので、気になりながら、買わずにいた。クリスマスにマイケルがプレゼントしてくれ、また、ブライアンが亡くなり、「グリーフ」についての本を読みたいと思った。

アレクシーと母親の関係は、とても複雑。考えてみれば、アレクシーの本には父親のことはいっぱい出てくるのに、母親は出てこない。それについて本書で彼は「母親が自分を愛していたのか、確証が持てなかったから」と書いている。また、本書でアレクシー自身が脳腫瘍のために自らの生き死にについて考える経験をしたことも書かれ、母親だけでなく、作者自身の人生も書かれている。とても個人的なことに始終する600ページなのかと予想したけれど、数十ページ読むと、これは母親と自分の関係というレンズを通して、Spokane-Coeur d'Alene族に起きた侵略、ネイティブアメリカンに対する迫害への思いを書いたものでもあるのだと気がついた。

おそらく、そうしようと思ってそうなったのではなく、自分と母親の人生を語る上でスステムによる略奪、殺人、ジェノサイドについて語らずしては、全く説明がつかなかったからだ。なぜ母親が子どもに対して冷たかったのか、なぜ自分の姉は火事で死んだのか、なぜ、自分はいじめられたのか、なぜ自分の父親はアルコール依存症だったのか、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ?

一つ一つの痛みを、様々な形態の文章で語っていく。
ここまで読んだら、なんて重い話なんだろうと思うと思うけど、
それが読んでいると、前述したように、笑える。笑ってしまう。
普通に語ったら、重くてもう読みたくなくなることを、この人は魔法のように書く。
ページをめくる手は止まらない。
涙も笑いも出る。ため息もつく。

本を閉じても、アレクシーの言葉を考えている。

この人は「本当のこと」を書く。正直に書く。

だけど読んでいると、聞こえてくる。彼のお母さんの声。
読んでいる時に頭の中に印象として残るのは、高齢の女性の声。

アレクシーは、言葉の魔法使い。

この人のレベルに、自分は絶対に届かない。

彼の作品を読むといつも思うのだけど、でもこの伝記を読んで、それがどうしてか分かった。

この人が経験している痛みは、私の比じゃない。何世代にもわたって、どんどん積み重なっていった、なおやまない迫害の傷は、到底私の想像が入れる余地がない。「今までの辛い出来事を消してやる。お前の詩と引き換えに。」そんな契約を悪魔とするか、と友人に聞かれたという一節があった。アレクシーは「いやだ」と答えるけれど、「正直に言えば、辛かったことのリストを三つくらい作って、それは消してもらいたい。その分の詩が消えてもいい。あとの辛いことは、全部取っておく。」と書いている。

私は彼の言葉に感化され、勇気付けられ、希望をもらう。その彼の書いているものが、ここまでの痛みからできていること、だから彼の言葉に真実味があること、改めて考えさせられた。

そして私がアレクシーを好きな大きな理由は、彼が「きれいごとを言わない」そして、すごく「人間臭い」し「愛に溢れている」から。無理にこうしよう、ということはない。〜〜すべきだ、ということもない。自分にあった場所で、生き方で、しなやかに生きている印象が、その痛みの中でも(だからこそ?)清々しい。

そしてその大きな痛みの中で、一緒に痛がり、時には傷口に塩を塗り、一緒に慰め合い、そして離れ、理想の「母親と僕」には程遠いけれども、

そこに愛は確かにあったよ。

というのが、この作品のタイトルの裏かなあ。

コロニアリズムや先住民の人の現実に興味がある人はもちろん、
ただ良い本が読みたい人、
大切な誰かを失った人、
オススメです。

コメント

  1. kitsuneさんのブックリビュー、いつも楽しみにしています♪ ここまでじっくりと読めるって素晴らしい。Kitsuneさんの作品を浸透させて自分の言葉でアウトプットする力に感嘆します。Sherman Alexieの作品は読んだことがないので、今度図書館でさがしてみますね。アレクシーさんの作品を読破して卒論のテーマにされたんだ。とても興味深いです。

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    1. そんな風に言っていただけると嬉しいです!!いつもブックレビューを書くとき、自分の心の中を整理したい気持ちが強くて、「これ、きっと誰にも伝わらないかなあ」と不安です。アレクシーは、詩と短編がとても良いので、読まれるのならそちらをお勧めします。長編は、なんだか私はいつも馴染めないんですよね。卒業論文を書いた時は、すごくハマって、貪るように読んでいました。笑 今は気に入っている短編や詩集を、定期的に開きます。また、最近アレクシーは色々なテレビなどで政治的な発言もしています。もしよければ、これも面白いので、ユーチューブで見てみてください!これからもレビューを書いていくので、遊びに来ていただけると嬉しいです、

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