The Future is Dark

今日はレビューのみ。
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フェミニズムと聞くと、敬遠しがちだった。最近それはなぜだろうと考えた。女性であることで社会的に不利な立場にいる、ということに気がついていないわけではなかった。だけどそれが「当たり前」すぎて、それを変えれるともあまり思わなかったし、フェミニズムにまとわりつく偏見に屈していたのも理由だと思う。それはフェミニストは完璧でない、アグリーだ、とか、そういうもの。

フェミニスト、フェミニズムは完璧じゃない。でもそれは、なんだってそう。キャピタリズムも、コミュニズムも、アイデオロジーで完璧なものなんてない。人間が作ってるんだもの。

フェミニズムについて改めてちゃんと向き合って読んでみようと思ったのは、男の子の母親になったことが大きい。体の大きなこの子が、力を男であるというだけで与えられるこの子が、誰かを傷つける、そんなことは絶対嫌だ。それは肉体的なバイオレンスだけでなく、女性のことを下に見て蔑むというあからさまな偏見だけでなく、もっと日常に潜んでいる、例えば「女の子だから料理をしてね」「女の子だから裁縫が上手ね」「男の子だから強いよ、泣かないよ。」、そういう隠れたジェンダーのボックスに自分も、愛する誰かも入れてほしくないと思ったから。

そのためには、自分の中にある女性蔑視、ジェンダーのボックスもきちんと直視したいと思った。分かっているようで、わからない。女性であるのは自分なのに、そこで感じることもの、経験することものへの説明がうまくつかない。そして、近年、やっぱり自分が女性だからこういうことが起こるのかな?って思わずにはいられない場面がたくさんあった。

一番多かったのは、自分より年上の男性に「マンスプレイニング」されること。「キツネ、君は何も知らないだろうから、教えてやろう」「僕はこんなに知ってるんだ。正しいんだ。聞いてくれ」というすごいみち溢れる自信と厚かましさで話されることが多く、それをされると胸が気持ち悪い。なんでだろう?(Men Explain Things to Meそのもの)

そういう風に考えている時、ウールフを読み、ちょっとすっきりし、そのウールフに傾倒するレベッカ・ソルニットのこの本に出会った。最初のエッセイの題名が、本のタイトルになっている。この本には9つのエッセイが収録されていて、その中でもこの最初のエッセイと、ウールフのダークネスについて語られるエッセイは素晴らしい。他のエッセイはアメリカの性犯罪やゲイマリッジについて語られ、数字が具体的に示され、あまりの性犯罪の多さ、残忍さに一体人間って、なんなんだろう?と怖くなる。

筆者はフェミニズムについて次のように書く。

Feminism is an endeavour to change something very old, widespread, and deeply rooted in many, perhaps most, cultures around the world, innumerable institutions, and more households on Earth- and in our minds, where it all begins and ends. (p. 140)

私は自分の「マインド」と「ハウスホールド」を変える力を少なくとも直接的に持っている。私が掃除し、料理する。それを見て息子が育てば、どんなにフェアな心をと教えても、見たことから「掃除や料理は主に母親」と学ぶだろう。このことをマイケルとしっかり話し合ってから、うちの中のものはほとんど分担で進む。息子が生まれてから、オムツを替えた回数はおそらく夫の方が多い。選ぶ絵本も、なるべく主人公の性別が偏らないようにしている。

私の頭の中にも、たくさんのジェンダーボックスがある。女の子だから、これを着よう、こんなことをしたら女らしくないかなあ。そういう直接的な言葉じゃなくても、積極的な思考じゃなくても、無意識のうちに体がその箱の中でしか動かない。思考パターンが決まってくる。無意識のうちに我慢したり、制限をかけたりする。それは時に仕方がないし、それを全部排除しなければいけないわけではないし、それは不可能なこと。だけど、不当な扱いを受ける時、その後ろにあるミソジニーに気がつけるか、気がつけないかで自分の身の守り方が違ってくる。

You can use the power of words to bury meaning or to excavate it. If you lack words for a phenomenon, an emotion, a situation, you can't talk about it, which means that you can't come together to address it, let alone change it. (p. 129)

そして、女性がプロパティーであった結婚の概念から、家の中で暴力を振るわれても男性が罪に問われなかった時代から、結婚するパートナーはイコールである(理想として)というところまで持ってきたのは、フェミニズムの運動によるところが大きい。そして私はその利益を味わっている。女性の権利のために戦い続けた人たちのおかげで、私は今の生活が送れている。結婚はイコールなパートナー同士に結ばれるものという概念があるから、同性のパートナーの結婚も当たり前になってくる。何事も段階を踏んで、ゆっくりと進む。

一番この本のエッセイで好きだったのは、ヴァージニア・ウールフについてのものだった。筆者が

"The future is dark, which is the best thing the future can be, I think."

というウールフの言葉を引用する。淡々とした言葉だけど、なんと希望に満ちた、深い言葉だろうと私は思う。暗いから、何もわからない将来だから、希望がある、のだろう。筆者は、声を上げ、運動をすることで何かが直接的に動くことは稀であっても、予測もしないところで影響を受けた人たちが動き物事を好転させたりするのだと言う。自分に見えるものは限られていて、知識として飲み込めるものも少ない。世界は広く、知識は深い。一人の人間には限界がある。その盲目さと限界を弱さととらず、積極的に認め、その闇の中で動けるだけ動き続ける。それがフェミニズムのエッセンスなのだとエッセイを読みながら学んだ。

大学院のクラスで、フェミニズムリサーチメソドロジーを勉強した時、インタビューを長時間行い、ためいきや間も逃さずに原稿起こしし、それを質的に分析することにもどかしさを感じたけれど、やっとこの本を読んで、すっきりとした。すべてのエッセイは10数ページで、読み物として難しくない。簡潔な言葉で、女性の置かれている状況やフェミニズムの達成したこと、課題などを語る。

もやもやとしていた私にとってはとても良いスタートになったし、励まされた。筆者はたくさんの著書があるので、読んでいきたい。

コメント

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  2. きつねさん、こんにちは。いつもブログを楽しく拝見しています。実は一度、カナダの大学院のことでメールのやり取りをさせていただいたことがあるのですが、結局現在は日本の大学院で家族と教育に関する修士論文を執筆しています。覚えていらっしゃるか分かりませんが、あの時は本当にありがとうございました。
    この前の『Hunger』の読後感想にもジェンダーに関して記述されていたかと思いますが、きつねさんが書かれたことのほとんどが、私が日頃もやもやというか鬱々と感じていたことを、より日常的なレベルで言語化して下さっている気がしました。別にここでフェミニズムについてお話しようとかそういうことではなく、きつねさんが本書を読んで励まされたと仰っているように、私もきつねさんの読後感想を読んで励まされることが多いです(特にこの論文の時期は笑)。おそらく正直に書かれているのだと思いますが、きつねさんの考え続ける姿勢にいつも背筋が伸びる想いです。また、ジェンダーギャップ指数が年々下がる日本で「ふぐぅ」と思うことが多い中(多分皆さんそうですよね笑)、今回の感想文には何だかいつもよりパワーをいただきました。ありがとうございました。
    という、ただのファンレター(?)です笑。日々の生活お忙しいかと思いますが、これからもっと寒くなるのでお体に気をつけて下さい^^

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    1. こんにちは!!コメントが遅くなってごめんなさい。そして、コメントありがとうございます。とっても嬉しいです。日本で大学院生活、送られているのですね。修士論文の執筆中ということで、とても大変だと思いますが、お体には気をつけてくださいね!3年くらい前私もやっていたなーと懐かしく感じます。書いている時本当に必死で、不安だったなあ。。
      日本では本当にジェンダーのことをパブリックに話すことすら憚られますよね。「フェミニスト」や「フェミニズム」に貼られたレッテルも北アメリカのものよりひどい気がします。私の書いたことに共感してくださったと聞いて、日本でもカナダでも、女性の直面する難しさ、生きづらさって程度の差はあれ、一緒なのかなあと感じました。とは言っても、フェミニズムに与えられる批判のように「女性だから」というだけでくくったり、ジェネラライズできる問題でもないのですが、でも、ブログを読んで何か感じていただけたならとても嬉しいです。
      最近の私のブログは、本のことばかりで、誰も読んではくれないだろうなあと思っていたので、なおさら嬉しかったです。笑 今は子育てであんまり時間が取れないので、アウトプットよりもインプットに力を注ごうと思っていて、本を一冊読んでからしかブログを書かないという自分の決まりがあるんですね。
      でも、12月は大長編を読む予定なので、そのルールはおしまいにするかもです(←適当です、はい)
      なので、また遊びに来てください。お時間のある時にまたコメントも楽しみに待っています!グッドラック!!!

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