Catching up
マイケルの年内の仕事も終わり(在宅作業除き)、私の仕事も終わり、一息。年の暮れが近づいているなあという感じ。
ノバスコシアに行くので、その準備もあるし、いろんな人に会いたいので、あまりゆっくりというわけにはいかないけれど、やっぱり三人で過ごす時間はいいなあ。
ノバスコシアに行く前に読んでしまいたい本があったので、駆け足でレビュー。
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"I AM WOMAN: a native perspective on sociology and feminism" by Lee Maracle
ライティング的には好きな部類に入る。詩やフィクションやエッセイの形態をミックスし、植民支配される先住民として北アメリカに存在する苦悩、怒りを書く。この本を読んだのは、「フェミニズム」には白人女性のプリビレッジが色濃く反映される場合があるという批判をよく読むから。「女性である」というだけでその経験がユニバーサルではない。そして、私自身、ファーストネーションズの本を多く読んできているので、フェミニズミに対し、どのような考えで接しているのだろうと興味が湧き、読んだ。
率直な感想として、読むのがとても辛かった。言葉自体はとてもリズミカルで、本を読んでいるというよりも、筆者の演説を聞いているような、劇を見ているような、そんな気持ちになるくらい自然に入ってくる。だけど、内容があまりにも暗い。怒りのレベルとみち溢れ方が半端なく高い。それだけファーストネーションズの人たちが北アメリカで置かれる状況は辛く、解決しようにも、建国の歴史、現在のシステム全てがコロニアリズムに根ざしているこの国では、その根本的な解決を図ることは国の根幹を変えることになるので、その見通しは果てしなく悪い。
大学院で勉強したので、知識として新しいことはそこまでなかったけど、フェミニズムのスタンスは辛いものがあった。それは、ネイティブの人たちはまず「人間として」みられていないから、女性としてどう、という話の前に、白人が自分たちのことを「正当な人」としてみなすことを求める運動から入らないといけない。白人女性が声高に国外の有色人種の女性の解放をうたっているが、国内の先住民をどうしてみないのか。自分たちの犯している罪には目を瞑るのか。そこに、フェミニズムのかなのレイシズム、クラシズムといった隔たりを見た。
トーンとしては、私は結構この筆者に共感することも多かったのだけど、こちらの居心地が悪くなるくらいの強い白人への批判、男性への批判、それを読み進めていくと胸の動悸が早くなるようだった。やっと読み終わった終わりに、「最後まで読めた人は少ないでしょう。でも、読んだ人には、私たちの闇が見えたはず。読む前よりもっと落ち込ませてしまったらごめんなさい」という文言が書いてあり、これくらい強く訴えなければ伝わらないもの、ここまでしなければ外に出きれないもの、ファーストネーションズの現実を顧みれば、訴えとしてきっと、これでもまだ弱いんだろう。
それくらいの苦しみ、ジレンマ、怒り、涙がうかびあがるテキスト。
セトラーは読むべき。耳が痛くても、読むべき。
心をオープンにして、読むべき本。
マイケルにこの話をしたら、この本のタイトルは、ヘレン・レディの歌からとってるのかなあ?と言っていた。"I am woman. Hear me roar."という歌詞で始まる曲。
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"Lincoln in the Bardo" By George Saunders
ずっと読んでみたくて、でも、本の形態が少し変わっていて買うには勇気が出なかったので、図書館で探していた本。先週見つけて借りてきた。アメリカの16代大統領、アブラハムリンカーンの息子、ウィリー・リンカーンの死をめぐる不思議なお話。歴史的に本当にあったことを基にしたフィクション。
なのだけど、お話が全て会話と、歴史的文書の引用で進んでいく。はじめ読んでいくと、数ページ後に、「あれ?なんかこれ、変だな。この人の名前、なんで行の真ん中に突然小文字でポンと出てくるんだろう?」という疑問にぶつかる。次のページをよく観察すると、「あ、これ、劇の脚本みたいになってるんだ」と気がつく。また読み進めると、今度は引用のみが続くチャプター。その形態の繰り返しで最後まで話が進む。350ページくらいの本。最初の100ページでこの形になれる感じ。面白いのは、引用のところで喰い違う証言があり、歴史的な人物の正確な肖像を描くことってすごいチャレンジなんだなあと気付かされる。また、南北戦争の真っ最中で多くの戦死者が出ている中、そして息子が病で苦しむ中、ディナーパーティを開きその最中に息子の容体が急変して亡くなったという事実が、なんとも重く、また、今評価の高いリンカーンは一人の人間としてどんな人物だったのか、興味がわいた。
会話で進んでいくお話だけど、誰の会話かというと、墓場で交わされる幽霊たちの会話。途中で「あれ?この人たち死んでるよね?」と混乱する箇所があるけど、それは幽霊自身が自分が死んでることに気がついていないからなのね。「成仏できずに現世にとどまる」という話は日本ではよく聞き、真新しい話ではなく、私としてはそんなにストーリーに満足はいかなかったけれど、ライティングのスタイルの新しさと実験的な試みに好意が持てた。
また、アブラハム・リンカーンが息子のウィリーを幼くして亡くし、その喪失に苦しむ、というのが話のメインの筋なので、息子を持つ親として、心が痛すぎて、涙する場面も何度もあった。自分のおかした罪はなんだったのか、どうして自分はここに留まっているのか、なぜ誰も会いに来てくれないのか、それぞれの「プリビオス・ライフ」に悩み苦しむ幽霊たちの姿がなんだか滑稽で、哀れで可愛らしかった。
全編にわたり、なんだか演劇を見ているような気持ちに。
もう一度頭から形になれた上で読み返したかったけれど、残念ながら図書館に返却してきた。(もう直ぐ旅行なので)また縁があれば、手にとって最初の100ページ、読みたいな。
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