Canada Readsの勝者 The Orenda を読んでみた
久しぶりに夜更かししてでも読み進めたくなった本。
500ページの長編。
舞台は現オンタリオとケベックと呼ばれる土地、ヒューロンの国。
先住民の国、ヒューロンとハンドソネネーションは長い間対立関係にあり、そこにフランスからの入植が加わり、対立関係が複雑になっていく。
語りは3方向から。一人目のナレーションはSnow Fallsというハンドソネの少女。両親をヒューロンに殺され、その戦争のどさくさでクリストフというフランス人宣教師にヒューロンの住む土地まで運ばれる。二人目のナレーションはBird。Snow Fallsの両親を殺した張本人。ヒューロン国の実力者で、嫌がるSnow Fallsを自分の娘として迎え入れる。三人目の語り手は、クリストフ。ヒューロン族からはCrowとか、Charcoalとか呼ばれる。フランスから布教を目的に入植。ヒューロンは彼を特に役にも立たない不吉なものだと見るが、フランス"hairy ones"との交易、そして軍事的同盟のためにクリストフを殺さず、コミュニティに残す決断をする。
この3人の語りが、Snow Fallsが憎むヒューロンに受け入れられ、二つのファーストネーションの対立とキリスト教の布教、フランスとイギリスの入植の影に翻弄されながらも、自分の「オキ(魂)」に忠実に生きようとする過程を描く。この少女がエピックの土台。
同時に面白いのが、クリストフの目を通して語られるクリスチャン的観察と、ヒューロンネーションのBirdを通して語られるWorld View。この二つが交差して同じ場面に何層ものレイヤーが重ねられていく。筆者はジョセフ・ボイデン。ボイデンはアイリッシュ、スコティッシュ、そして先住民のアニシナベネーションをヘリテッジに持ち、これまでも先住民を題材にした作品を多く生み出してきた。筆者のボイデンは言う。
“誰もが「先住民→フレンチ→ブリティッシュ」と表面的に理解してしまうカナダの歴史にcomplexityをもたらしたかった。”
その言葉通り、一人ひとりのキャラクターが深くて、複雑で、1ページごとに、一体何が起きるのか瞬きするのももったいないくらいだった。
この本は、カナダでCanada Readsという企画で、賞を獲得した。そのトークショーで、ステファン・ルイスがこの本を「拷問ポルノ」みたいだと批判していた。確かに、拷問のシーンが多い。すごく痛い。痛すぎて、読みたくなくなるページが何ページもあった。
ステファン・ルイスに対して、ジャーナリスト、また、先住民活動家のウェブ・カヌーが「拷問は単純に拷問ではなく、セレモニーとして描かれている。ヨーロピアンな一方的な捉え方でポルノと呼ぶな。」みたいな反論をしていて、そのときは、何のことなのか分からなかった。
だけど、読み進めていくうちに、この”Torture”シーンが物語のドライブになっていることに気がついた。そして途中で、明らかに作中、フランス人のした拷問と、ヒューロンやハンドソネのする拷問が違うことに気付かされるシーンが有る。ネタばれになるので詳しくは書かないけれど、しっかり読めば、明らかに「拷問ポルノ」じゃないことは分かる。
また、もう一つの批判に、この本がセトラーナレティブをサポートしているというものがある。それは、カナダが入植者によってつくられ、先住民は衰えるべくして衰えたと言うもの。全編読んでみて、私にはどこからこの批判が来てるのかよく分からなかった。確かに、銃や石作りの防壁など、フランスのもちこんだ技術へのアドミレーション、そして、フランス・イギリスのもたらした破壊、コミュニティのアンバランスは鮮明に書かれていたし、キリスト教徒の行ったバイオポリティクス的なコントロール、暴力もそこにあった。だけど、それを単純にセトラーナレティブをサポートしているととるのは、あまりにも短絡的ではないか。
同じラインの批判で、ヘイデン・キングという先住民の学者は、クリストフの語りはとても偏見に満ちている宣教師達のトラベルログを基にしていて正確ではないと言っている。トラベルログは正確ではない、それはたくさんの学者によって批判されているし、筆者ボイデンも知っていたはず。だからこそ、ボイデンはこのナレティブの形式をスピーチでの「語り」ではなく、ジャーナルに残した「筆記での語り」という形で提供している。ボイデンは一度も、このクリストフの言葉が真実であると言っていない。
その証拠として、後半、ジャーナルがクリストフの手から離れた後も、クリストフの語りが終らない。もしこのジャーナルの語りが「真実」なら、ジャーナルがクリストフの手から離れた時点で彼の語りも終るべきではないか。クリストフの最期の勇姿は彼の一人称の語りで紡がれ続ける。そこにこそ、ボイデンのトリックがあると私は考える。
この作品の一番興味深いところは、入植者の影響が大きくなる前のヒューロンコミュニティの暮らしぶりや、人々と自然とのつながりが、筆者の経験、またエルダーたちの言葉を基に描かれていること。「時間」というコンセプト、筆記というカスタム、入植者がもたらす今では当たり前となっているものが浸食する前の生活を、カラフルな登場人物を通してはっきり想像することができる。
歴史的な読み物として読めるか、これがカナダの先住民コミュニティとセトラーコミュニティのreconciliationになりうるか、様々な点から議論されるこの作品。私としては、この500ページ、Snow Fallsと一緒にできた冒険に心から感謝したい。全く違う世界観がぶつかりあい、暴力とサバイバルの網の目から光としてこぼれるスピリチュアリティーと愛のかたち。ポリティクス含みで読み始めたけれど、途中でそういうこと抜きにして、パワフルなストーリーラインにぐんぐん引き込まれる。シンプルな言葉。だけど、表現がとても詩的。目を閉じると、一つ一つのシーンが鮮明に瞼の裏に浮かんでくる。
どんな政治的意味を見出すのかは個人によるけど、私としてはとても満足。
Reference
- Wab and Stephen debate about torture in The Orenda
http://www.cbc.ca/player/Shows/Shows/Canada+Reads/Canada+Reads+2014/ID/2440240230/
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The Orenda faces tough criticism from First Nations scholar
http://www.cbc.ca/news/aboriginal/the-orenda-faces-tough-criticism-from-first-nations-scholar-1.2562786
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The Orenda won Canada Reads and I feel weird about it.
http://rabble.ca/blogs/bloggers/bound-not-gagged/2014/03/orenda-won-canada-reads-and-i-feel-weird-about-it


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