Louis Riel and Gabriel Dumont

先日読んだThe Orendaに続き、ジョセフ・ボイデン2作目。

今度は伝記。ペンギンクラシックのExtraordinary Canadian シリーズの一つ。

ルイ・リエルとガブリエル・デュモン。

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ボイデンの書くスタイルに慣れてきたからか、1日で読めた。まあ、短かったしな。面白かったー!

メイティと呼ばれる、ヨーロッパと先住民のヘリテッジを併せ持つ人たち。「インディアン」でもなく「白人」でもないことから、その権利は長い間無視されたり、軽んじられたりしてきた。イギリス系、アイリッシュ系、スコティッシュ系もいるけど、大半はフランス系。ミスチフという、フランス語とヒューロンの言葉が混ざった独自の言葉を話す人たちもいる。

1800年代、カナダがアメリカの「マニフェストディスティ二ー」に飲み込まれないよう、そして対抗できるようカナダの第一代首相ジョンA. マクドナルドのもと、鉄道建築を推し進めていた頃、大きな”rebellion”がメイティの人々によって起こされる。

この伝記は、「国家の敵」として多く描かれるメイティの宗教家でありリーダーのルイ・リエルと、偉大なバッファローハンターであり、軍略家のガブリエル・デュモン、2人の関わりに焦点を当て、両方の出会いからその人生の終わりまでを、ボイデン独特の語りで描く。

アメリカの歴史と同じように、カナダの歴史でも、西へ西へと開拓を進めていくことは、先住民をリザーブ(アメリカではリザベーション、カナダではリザーブ)に押し込めること、土地を奪うこと、レジデンシャルスクールや養子政策で文化伝承を阻止し破壊すること、あるいは、殺すことを意味する。

カナダの第一代首相マクドナルドのもと進められた鉄道建設は、多くの移民労働者を必要とした。と同時に、多くの西へ向かう土地、メイティやファーストネーションが生活を営む土地を必要とした。

最初のルイ・リエルを中心とした政治活動は現マニトバでおこる。ハドソンベイカンパニーがイギリス王家から承認されていた土地を、カナダ政府に売る約束をした。その土地にはメイティも生活していたのに、一切相談されず、メイティの土地にエージェントがやってきて区分け販売のための測量を始めてしまう。

そこで立ち上がり、メイティだけでなく、白人の居住者も巻き込んで政治活動を始めたのがルイ。ルイは敬虔なカトリックでもあったので、教会の牧師達からの協力も得た。マクドナルドが全くメイティの立場を受け入れる姿勢を見せず、武力闘争まで発展。ルイ陣営はオレンジマン(アイリッシュ系プロテスタント、排他的、差別的言動で有名)のメンバーであるスコットを処刑。最終的にマクドナルドがメイティの要求を飲んだ形で活動は終わるが、ルイはアメリカに亡命する。(マクドナルドは保証金をルイに払う約束をするが結局一生支払われない)この政治的な活動がルイが「マニトバの父」と呼ばれる所以。いったんの収束を見せたマニトバでマクドナルドは、メイティとの約束の多くを守らず、結局多くの人がバッファローを追って西へと移住した。

その十数年後、鉄道建設のために同じような問題がサスカッチュワンでおこった。また、メイティの作り出したコミュニティが、その基盤となる土地が、脅かされる。そこでルイの力が必要になったのが、バッファローハンターのガブリエル・デュモン。ルイのいるアメリカまで彼を迎えに行き、デュモンとルイ、2人はメイティ、そして移住者、ファーストネーションの人たちが皆平等に暮らせる場所を作ろうと、政治的活動を始める。請願書をオタワに送るが、マクドナルドは長い間無視し、やっと返ってきた答えは到底満足のいくものではなかった。

カナダ政府は軍を送り、デュモンも兵を集めて戦いの準備を始める。この時点では誰も、この戦いの結果、ルイ・リエルは処刑され、デュモンは命を追われることになるとは思っていない。

この伝記は2人のメイティリーダー達が、大きな西へと向かう走り出したばかりの国「カナダ」に立ち向かい、先住民もメイティも白人も、土地を分け合って住めるように、お互いに尊重しあって社会を作れるように、奮闘した過程をかいている。

筆者のボイデンは多く歴史学者や、ジャーナルを引用するが、全編通して想像力を駆使したナレティブが、伝記というよりもフィクションを読んでいるような気持ちにさせる。ルイ・リエルは最期、国家反逆罪という死罪しかない刑にかけられ、英語力も不十分なまま、白人のみの裁判員達によって裁かれた。この裁判は当時も国際社会から批判され、今でもカナダの歴史の闇として多く議論が交わされている。言うまでも無く、この一連の土地搾取には相当な人種差別的圧力がかかっていた。

ボイデンのナレティブは、リエルとデュモンという2人の「反逆者」にぬくもりを持たせ、その苦悩と信念、人生の終わりまでの変遷をくっきりと表してくれる。デュモンの戦場でのタクティクと、ルイの死刑判決を決める裁判でのやりとり。まるでそこにいるかのような臨場感。「フレンドリー」なカナダの裏の顔。ドキドキしながら、胸を痛めながら、怒りを感じながら一気に読んだ。

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