バスキアの元恋人

バスキアの展示を見てから(その時の記事はここから)、バスキアについての映画を見たり本を読んだりしてるけど、この元彼女スザンヌのテスティモニーを元に書かれている本はとても興味深く、一晩で一気に読みきった。



バスキアに対する彼女の深い愛と、二人の辿った情熱的でとても悲しい旅路はおそらく二人にしかわからないものだけど、その刹那的な瞬間瞬間の連続が彼らの関係をつなぎ、スザンヌはバスキアにとっておそらく一番大切な人だったのだろうと思う。

この伝記的な小説は、バスキアの伝記ではなく、スザンヌのもの。パレスチナからカナダに渡った彼女が虐待から逃げ出し、ニューヨークで自立して生きていこうとする始まりに働いていたバーで、バスキアに出会う。

男女関係なく知的でユニークな人を愛したというバスキアにスザンヌが振り回されていく場面も多々あったけれど、この関係性をスザンヌのバスキアに対する母性にも似た愛情が、強いものにしていく。

バスキアのアートの中にあった「ブラックアーティスト」として台頭していくことに対する葛藤と、黒人に対する暴力と差別が渦巻く社会での恐怖感、それに抗おうとする力、ときにあざ笑うかのようなパフォーマンス。でも、ドラッグ使用な中で彼は徐々にその恐怖とプレッシャーに沈んでいく。

スザンヌは自分の人生がバスキアの影の中に埋もれてしまうような感覚になり、あるとき、本当の意味での「自立」、彼女がなぜニューヨークに来たのかという原点に立ち返ろうとバスキアから離れる決意をする。

だけど、お互い、離れられず、
やっぱり磁石のように戻って行ってしまう。

スザンヌはバスキアの死後、ニューヨークのアートの世界から姿を消し、中毒に苦しむアーティストの手助けをするカウンセラーになった。彼女とバスキアの友人である黒人の青年が警察の暴力によって殺されたときも、彼女は一人で事件に立ち向かい、遺族の訴訟までこぎつけた。

スザンヌという女性は、難民という立場、虐待被害者という立場、そして「アラブ」として受けた差別から、バスキアの持つ社会に対する不満や不安を自分の芯から感じ、理解できていた人なのだと思う。

彼女が個人の間に線を引かず、どんなに世間的にレッテルを貼られている人にも、同情からでなく同胞として手を差し伸べるジェスチャーが強く印象に残った。

本としてのまとめ方も詩的な短編のアセンブリで、パワフル。リズムよく読める一冊。

悪天と体調が悪いのもあり、よく本を読んでいる。お義母さんの本棚から拝借するのだけど、今惹かれるのは伝記物。

このバスキアの前にマーガレット・ローレンスの伝記を読んだ。なんでかな?伝記ってあんまり今まで楽しめなかったのに。

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